「ステマ」は企業ブランディングを損なう

企業がブランディングを行う際に重要となるのは、どれだけ多くの人の共感を得られるかです。企業自身や、商品・サービスをユーザーに身近に感じてもらうことで、ブランドの周知や認知度を向上させることが企業ブランディングの主な目的です。

そのため、近年はユーザーとの距離が近いSNSを使ったブランディングに力を入れる企業も多く、影響力のある人間を介して自社をアピールする「インフルエンサーマーケティング」も注目を浴びています。

しかし、一方で、企業が広告やPRであることを隠した「ステルスマーケティング」に過敏になっているユーザーも多く、安易なインフルエンサーマーケティングを行うと却って企業のイメージを損なう可能性があるのです。今回は、企業のブランディングの大敵となる「ステルスマーケティング」について考えてみたいと思います。

ユーザーが自ら選んだインフルエンサーのため、共感を得やすく、企業や商品の魅力も伝えやすい

「ステルスマーケティング(以下、ステマ)」について考える前に、まずは「インフルエンサーマーケティング」がどのようなものなのかを整理しておきましょう。

インフルエンサーとは、他人や社会に影響を与える人物を指す言葉です。芸能人やスポーツ選手などの著名人がイメージされることが多いですが、特定のコミュニティで大きな影響力を持つ人間もインフルエンサーと呼ばれます。YouTuberやインスタグラマーなど、若い世代を中心にSNSで多くのフォロワーを集める人間などがこれに当たります。

これらのインフルエンサーに自社に関するものを取り上げてもらうことで、周知や認知度向上を図るのが、インフルエンサーマーケティングです。

では、なぜインフルエンサーマーケティングに効果があるのでしょうか?
それは、一定の信頼関係を有する人と人のつながりをベースにしたマーケティングであるためです。企業がどれだけうまく自社や自社の商品の魅力を伝えたとしても、そこには必ず企業と消費者の壁があります。しかし、ユーザーにとってインフルエンサーは「身内」に近い場所にいるため、その言葉はユーザーの心に届きやすくなります。自社や商品の魅力がしっかりと伝われば、それだけ共感を得られやすくなるというわけです。

また、ユーザーは自発的にインフルエンサーと接点を持っているため、「自分が選んだ」という意識からそのコミュニティにおける連帯感が高まります。特に、SNSはユーザー同士の距離感が近いため、その傾向が強まります。そのため、「インフルエンサーがよいと思ったものは、きっと自分にとってもよいものに違いない」という意識が働き、自社や自社の商品の魅力が伝わりやすくなるのです。

特定のコミュニティを利用したマーケティングなので、多くのユーザーを一気に集めることができるわけではありませんが、自社のマーケティングとブランディングを同時に行えるのがメリットです。SNSの発展で他人との「共感」がより重視されるようになった現代ならでのマーケティング手法といえます。

ステルスマーケティングは、消費者の不信感を強め、業界全体の利益を損なう

さて、大きなメリットのあるインフルエンサーマーケティングですが、その取り組みには慎重さが求められます。「共感」という人の感情を利用するマーケティングだけあって、一つ対応を間違えるとユーザーの不評を買いやすいという側面があります。ユーザーが裏切られたと感じた瞬間にそれまで得た「共感」が一気に「反感」へと変わってしまうのです。

スマートフォンやタブレット端末の普及もあり、SNSの情報はリアルタイムで更新され、広く拡散されていきます。そのため、企業の広報担当者が気づいたときには、もう後の祭りというケースもよくあります。「ステマ」は、そういったユーザーの不評を買う代表的な行為です。

「ステマ」という言葉は、とあるきっかけで世間でも一気に広まり、浸透しましたが、正確な意味をわかっていなまま使っている人も多いようです。

ステマとは、広告主がいるにも関わらず、広告主が明示されない広告、及びそれに類する広報活動のことを指します。基準がとても不明瞭なため、どこからステマに当たるのかという議論は今も絶えません。日本では「サクラ」という手法で古くから行われてきた宣伝方法でもあります。

ステマには大きく分けて、「なりすまし型」と「利益提供型」の2種類があり、インフルエンサーを使う場合は後者のものとなります。

なりすまし型とは、企業の社員や専門の業者が架空の人物を語り、こっそりと自社の宣伝を行う方法です。そして、利益提供型とは、インフルエンサーに金品などを提供することで、自社の宣伝を依頼する方法です。

ともに第三者の立場からその効果を実証できていないため、消費者に不利益を与える宣伝方法だと司法の場では判断されることが多いようです。

このような消費者を欺く行為は、ステマを行った企業やインフルエンサーだけでなく、業界全体のイメージを貶めるため、消費者の不信感が強まり、買い控えが起こるなど多くの企業の不利益につながります。
一企業のステマが業界全体にダメージを与えるのです。

事件化することも多いステマに対する世間の嫌悪感は強く、企業のブランドを著しく貶める

では、ここからは過去のステマ発覚事例を見ていきましょう。

デビッド・マニング事件

ステマ発覚で外せないのは、2001年に米ソニー・ピクチャーズエンタテインメントが起こした「デビッド・マニング事件」です。デビッド・マニングという架空の映画評論家に自社映画を絶賛した評論を書かせ、多くの映画愛好家を欺いた、この事件は全米で問題となり、同社の謝罪と経営幹部2人の一時的な停職処分に発展しただけでなく、訴訟を起こした観客に対して合計150万ドルの賠償金を支払うことになりました。

ペニーオークション詐欺事件

日本におけるステマ発覚事例として有名なのが、「ペニーオークション詐欺事件」です。
ペニーオークション詐欺事件とは、2012年にインターネット競売サイト「ワールドオークション」が、入札時に手数料のかかるペニーオークションのシステムを悪用し、入札者から手数料を騙し取った疑いで、運営会社の役員1人と社員3人の計4人が逮捕された事件のことです。オークションとは名ばかりで、実際は入札が入るたびに架空会員が自動入札するようなシステムになっており、入札金額が1,000万円を超えなければ落札できないようになっていました。

事件が発覚するまで、複数の芸能人がこのサイトで商品を安く落札できたことを喧伝しており、日本中で「ステマ」という言葉が注目されるきっかけとなりました。結果的に、積極的にステマに関わった芸能人は、第一線での活動を諦めざるを得なくなりました。

食べログ高評価レビュー

こちらは事件化していませんが、カカクコムグループが運営する口コミグルメサイト「食べログ」では、ステマによる問題を何度か起こしています。

まず、2012年にステマ業者による大量のレビュー投稿でやらせ評価が横行していたことが発覚しました。消費者庁の立ち入り調査を受けたものの、業者によるやらせの実証が難しく、行政処分は見送られ、自主規制による対応でその場を収めることになりました。

しかし、2017年には、食べログ内のインフルエンサーが特定の飲食店から過剰接待を受け、高評価レビューを捏造していた可能性が取り上げられました。事の真偽は有耶無耶のまま終わりましたが、インターネットにおける口コミの信頼性を大きく損なう問題となりました。同一サイトで、「なりすまし型」と「利益提供型」のステマが時を置いて発覚するという珍しいケースです。

ステマは詐欺事件につながるケースも多く、人と人とがつながりやすいSNSの弊害として社会問題になっている側面もあります。こうした世間の注目の高まりから、ステマを行う企業への風当たりは今後も厳しいものとなっていくでしょう。すべての営業活動に影響を与える企業ブランディングにおいて、ステマは厳禁なのです。

まとめ

健全なマーケティングやブランディングの積み重ねが、共感を集める一番の近道

自社への愛着を持ってもらうことを目指す企業ブランディングにおいて、ユーザーの共感を集められるインフルエンサーマーケティングが果たす役割は今後も大きくなっていくでしょう。それは多くの人の共感を呼び、愛着を持ってもらうことの難しさを証明することでもあります。

イメージの凝り固まった大企業や、なかなか日の目を見ない中小企業にとって、多くの人の共感を得られる可能性があるステルスマーケティングは魅力的なものに映るでしょう。しかし、安易な方法で手に入れた共感は反感に変わるのも早いと心得ましょう。健全なマーケティングやブランディングを行うことが、企業が共感を集める一番の近道なのだと思います。