近年、「再生医療」という言葉は広く認知されているものの、その内容の理解についてはまだまだ深まっていないというのが現状です。前編では、一般層と再生医療分野の研究者の間に広がるギャップ関して解説しました。一般層の知りたい情報と研究者の伝えたい情報のマッチングがうまくいっているとは言い難く、むしろスタンスの違いを知らしめる結果となりました。今回は、治療法としての「再生医療」を調査したデータを元に、将来それを扱うことになる医師や医療機関、そして研究者にどのような対応が求められるのかを考えてみたいと思います。

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再生医療は患者にどう受け止められているのか?患者から信頼されるには?(前編)

再生医療に対して慎重な態度を示す人は多いが、その実現には協力的

NTTデータ経営研究所が2016年に行った「『再生医療に関する社会意識調査』 再生医療へのヒト細胞提供はドナーに合わせた採取環境設定がカギ」では、治療法としての「再生医療」、そしてそのための細胞提供を一般層がどのように考えているのかを調査しています。

まずは、再生医療に関する用語についてどのくらいの認知度があるのか質問してみたところ、以下の結果となりました。

<次に挙げられる言葉に関して、どの程度知っていましたか(単一回答)>

すべての用語で「テレビや新聞などで見聞きしたことはあるが、内容までは知らない」が最も多い回答となりました。

認知度という意味では、iPS細胞が84.7%、再生医療が80.7%と共に8割を超える回答となりました。一方で、内容まで知っているという回答に絞ると、それぞれ13.0%、13.7%まで下がるため、将来的に治療法や役割、期待できる効果について訴求する必要があると推測されます。

次に、再生医療を治療法として選択するかどうかについてです。

<自身が患者だと想定して、再生医療を用いた治療法を選択しますか(単一回答)>

代替として、従来の治療法が存在する場合と存在しない場合について調査しています。
どちらの場合も、「医師の説明に納得すれば受ける」がトップの回答となり、それぞれ38.7%、39.7%となりました。

「情報に納得すれば」という点に絞って考えると、それぞれ「各種情報を自分で確かめて納得すれば受ける」と合計すると、62.9%と59.5%とおよそ6割の数字となることがわかります。再生医療に対しては、新たな治療法としての期待は高いものの、慎重姿勢を崩さない人が多いようです。

再生医療を実際の治療法として確立するためには、ヒト細胞の提供による研究が必須となります。
現状で再生医療への細胞提供をどのように考えているのか、「治療目的」と「研究目的」の両方で質問しています。

<自身の組織や細胞について、提供に協力してもよいと考えますか?>

提供してもよいと考える人が、「治療目的」の場合で56.9%、「研究目的」の場合で59.3%と、それぞれの場合で過半数を超える回答となりました。再生医療に慎重な人が多いものの、その実現のためなら協力を惜しまない人も多いようです。

献血や重病の経験の有無が、治療法としての再生医療の受け入れに大きく影響を及ぼす

では、ここで再生医療を治療法として選択する際に、その人の医療との関わりや経験がどのような影響を及ぼすのか調べたデータを見てみましょう。

<献血の経験と再生医療の選択性との関係(単一回答)>

「積極的に選択する/医師の説明に納得すれば受ける/各種情報を自分で確かめて納得すれば受ける」というポジティブな回答が、献血経験の有無で大きく変わることがわかりました。また、その際、従来の治療法が選べるかどうかに関しては、回答にそれほど影響を与えないことがわかりました。

「複数回数献血したことがある」と答えた人は、従来の治療法が選べる場合のポジティブな回答が82.0%、従来の治療法が存在しない場合が83.7%と高い数字を見せています。それに対して、「献血したことはない」と答えた人のポジティブな回答はそれぞれ61.9%、65.7%となり、献血経験がある人と20%ほど数字が開く結果となりました。未知のものへの不安はその経験と関係するようです。

次は、自身やその家族が重い病を患った経験のある人のデータです。

<重病経験と再生医療の選択性との関係(単一回答)>

献血経験よりも差の開く結果となりました。重病経験のある人の「積極的に選択する/医師の説明に納得すれば受ける/各種情報を自分で確かめて納得すれば受ける」というポジティブな回答は、従来の治療法の有無でそれぞれ85.4%、87.6%となりました。一方、重病経験の無い人のポジティブな回答は、ともに61.1%となり、その差はおよそ25%と、先ほどの結果よりも開くことになりました。効果のある治療法に期待する思いは、重病を経験してみないと分からないものなのでしょう。

ここで少し見方を変えた調査のデータがあります。日本には「へその緒」や「乳幼児期の毛髪」など、身体の一部を保管する慣習がありますが、この保管を行っている人と行っていない人で、再生医療に対する考え方に違いはあるのかどうか調査しています。

<身体の一部保管の有無と再生医療の選択性との関係(単一回答)>

身体の一部を保管している人の方が、「積極的に選択する/医師の説明に納得すれば受ける/各種情報を自分で確かめて納得すれば受ける」というポジティブな回答が多いという結果が出ました。

保管していない人のポジティブな回答が、従来の治療法の有無でそれぞれ67.9%、70.6%になったのに対して、保管している人の回答はそれぞれ77.6%、81.6%と10%ほどの開きが出ました。自身の身体への愛着は再生医療にとってプラスとなるようです。

再生医療の治療法としての期待が細胞提供への協力につながる

再生医療の実現のために不可欠な細胞提供に関しても、同様のグループ分けで質問してみました。
「治療目的」と「研究目的」の両方の場合で調査したデータとなります。

<献血の経験と細胞提供の関係(単一回答)>

献血経験の有無、そして回数で、回答が変わることがわかりました。
「複数回献血したことがある」人は細胞提供にも協力的で、治療目的の場合で72.6%、研究目的の場合で67.3%が協力できると回答しました。自身の血液の提供と細胞提供は同じ様に扱われると推測することができます。

<重病経験の有無と細胞提供の関係(単一回答)>

重病経験の有無の場合も、献血経験と同じ傾向が出ました。
重病経験のある人は、治療目的でも研究目的でも「協力できる」が7割を超える回答となり、
経験のない人との比較でおよそ20%の開きがあることがわかりました。

<身体の一部の保管の有無と細胞提供の関係(単一回答)>

身体の一部を保管している人の「協力できる」という回答が、保管していない人の回答より約10%多いという結果が出ました。
治療法としての選択性と細胞提供は密接に関係しており、回答傾向やその開きが同様のものとなることが分かりました。
再生医療に新たな治療法として期待している人々にとって、細胞提供はそれほど高いハードルとならないことが分かります。

従来の医療と同様に、再生医療でも医師や医療機関への信頼がカギ

最後に、細胞提供の条件に関して詳しく調査したデータがあります。
細胞提供の意思決定にどのようなことが影響を及ぼすのか、「細胞提供時の移動の手間(訪問が必要なことの影響)」「侵襲の度合い(侵襲性の影響)」「採取細胞の利用範囲(他人が全てを利用してしまうことの影響)」という3つの条件で質問した結果です。

<細胞提供の条件と意思決定に及ぼす影響(単一回答)>

「おおいに影響がある/少し影響がある」という意思決定に影響を及ぼす度合いは、訪問が必要なこと、侵襲性、他人が全て使用してしまうこと、の順で高くなることがわかりました。それぞれ55.9%、50.2%、40.3%という数字になり、細胞提供のために医療機関を訪問しなければならないという手間がかかることがネックとなるようです。

「治療目的」でも「研究目的」でも、細胞を提供したくないと答えた回答者にその理由を聞いてみました。

<細胞提供をしたくない理由(単一回答)>

「積極的に提供する理由が無いから」が最も多い回答となりました。次に多かった回答が「使われ方など不明であり、不安を感じるから」というもので、特に「研究目的」の場合に不安を感じることが分かりました。

細胞提供に協力的な層が訪問の手間という現実的な問題を意思決定に関わるものとして挙げたことに対し、
提供に協力したくない層は漠然とした不安を挙げる結果となりました。

そこで、細胞提供を行うに際し、どのような機関であれば安心できるのか聞いています。

<細胞提供の取り扱い、相談・登録機関として安心できるもの(単一回答)>

「病院」が45.8%、「公的機関」が44.3%で、この両者で9割を超える回答となりました。
再生医療といえども、その信頼感は従来の医療と同じで、医師や医療機関、公的機関に重きを置いていることがわかります。

まとめ ―再生医療について正確な情報を発信し、地道に信頼関係を築くことが発展の近道―

以上が、治療法としての「再生医療」に関する意識調査となります。自身の経験を踏まえて、再生医療に強く期待している層が数多くいることがわかると共に、やはり従来の医療と同じで、不安が解消されなければ積極的にはなれないと考える層も一定数いることがわかりました。

前編でもそうだったのですが、現在、再生医療は未来を変える魔法のようなものとして伝えられている傾向があり、そのことに疑念や不信感を抱えている人が一定数いるということが分かります。現状でその情報が正確に伝えられているかといえば、難しいところもあり、一般層に分かりやすく正確に情報を発信していくことが、今後の再生医療を発展させるポイントとなるでしょう。そのためには、従来の医療と同じく、患者となりうる一般層と、医師や医療機関、研究機関に携わる人々の間に地道に信頼関係を築いていくことが何より重要なのだと思います。


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