近年、iPS細胞に関する報道が増えたこともあり、「再生医療」への関心が高まっています。しかし、再生医療でどのようなことが実現できるのか、はっきりと理解している人は少ないかと思います。今後、再生医療が現実のものとなった時に備え、その情報とどのように向き合っていくべきなのか、意識調査のデータを元に、前編と後編の2回に分けて、考えてみたいと思います。

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再生医療は患者にどう受け止められているのか?患者から信頼されるには?(後編)

再生医療、iPS細胞について、よく分からない人が7割

まず、前編で取り扱うのは、文部科学省が中心となって行われた「『再生医療と社会』のコミュニケーションに関する調査」です。

再生医療に高い関心が向けられる中、
一般モニターと再生医療分野の研究者の間の認識とその違いを明らかにするために行われました。

<一般モニターの再生医療・iPS細胞の言葉の認知度>

再生医療、iPS細胞ともに、「聞いたことはあるが内容はよく知らない」がそれぞれ67%と70%で最も多い回答となりました。一般モニターには、認知度と理解度の間に大きな隔たりがあることがわかります。

<iPS細胞の実用化までの必要年月>

「早くて10年くらい」という回答が、一般モニターと研究者で一番多い回答となりました。
しかし、それ以外の回答を見てみると、一般モニターで「数年」という回答が3割を超えており、比較的近い将来に実現していると考えていることがわかります。実用化に関しては、一般モニターと研究者で少しギャップがあるようです。

再生医療に関して調査したデータがこちらです。

<再生医療について知りたいこと/伝えたいこと(複数回答可、回答は5つまで)>

一般モニターと研究者で異なる結果が出ています。一般モニターでは「危険性」が7割を大きく超えて最も多い回答となりました。他にも、「治療費(自己負担額)」「安全性確保の手段」「事故発生時の対応」といった選択肢に回答が集まりました。一般モニターは、自身やその家族が再生医療の対象となった時のことを想定しているようです。

一方、研究者では「期待される新しい治療」がもう少しで8割に届く圧倒的な回答を集め、トップとなっています。他の回答を見てみると、「メカニズム・しくみ」「医療応用や臨床試験」「産業としての可能性」が一般モニターよりも多い回答を集めており、再生医療を「新技術」として広く認めてもらいたいという意識があることがわかります。

一般モニターの知りたい情報と研究者の伝えたい情報のマッチングがうまくいっていないことがわかる結果となりました。

再生医療を実現するために重要となるサンプル提供に関して質問したところ、

<サンプルの提供を依頼された場合>

「提供したい・提供しても構わない」が61%で最も多い回答となり、ポジティブな反応が過半数を超える結果となりました。

再生医療がどうすれば受容されるのかについても調べたデータがあります。

<再生医療が受容されるために重要なこと(複数回答可、回答は3つまで)>

「起こり得るリスク・事故などに対応できるかどうか」が一般モニターと研究者の双方でトップの回答となり、それぞれ過半数を超える結果になりました。他にも、万が一への対応、責任体制を求める声が多く、不安を払拭する取り組みが今後の再生医療のために必要となることがわかります。

しかし、その一方で、研究者の回答で「科学的妥当性」が半数を超えていることにも注目です。再生医療の研究において、「何が許され、何が許されないのか」、その線引きを一般モニターに正確に伝えなければ、研究への理解は進まないのだと推測されます。

サンプル提供についても詳しく調査したデータがあります。

<サンプル提供に際して重視すること/重視していると予想するもの(複数回答可、回答は3つまで)>

一般モニターでは、「信頼できる医師等による助言」が6割を大きく超え、一番多い回答となりました。次いで、「どのような成果につながるか」にも多くの回答が寄せられています。一般モニターには、提供した先に何が待ち受けるのかという不安に対して、安心感を求める傾向があるとわかります。

それに対し、研究者は「個人情報が保護されるか」「採取時の痛さ」という実用への課題に意識が行きがちで、
ここでも一般モニターと研究者の間で考え方にギャップがあることが明らかになっています。

研究者は、情報を正確に伝えることに対して悲観的な傾向が顕著

さて、ここで一般モニターが再生医療に関する情報をどのように収集しているのかを見てみることにしましょう。

<再生医療の情報源(複数回答可、回答は5つまで)>

「テレビ」が8割を超えトップに、「新聞」も7割を大きく超え、その他の情報源を大きく引き離しています。既存の病院や医療に関する情報と異なり、再生医療はこれからの技術のため、情報のソースが限られてくることが、その大きな要因となっているようです。SNSなどでも、再生医療に関しては「テレビ」や「新聞」がソースとなる場合が多いようです。

再生医療のメディア報道に対する意識調査ではこのような結果が出ています。

<再生医療に関連するメディア報道に対する意識>

「再生医療に関する世論は、マスメディアの報道によって大きく影響を受けている」に関しては、「そう思う/ややそう思う」への回答が一般モニターと研究者の双方で高い数値となっており、前者では75.8%、後者に至っては92.7%と、メディアの与える影響が大きいことを十分に認識しているようです。

その上で、情報の取捨選択やメディアの煽動性に対するネガティブ反応が一般モニターが考える以上に
研究者に多く、メディア報道に対して悲観的な考えを持っていることがわかります。

社会的意義を果たすためには、一般層のニーズに応えるコミュニケーションが必要

最後に、研究者が同じ研究者や一般モニターとのコミュニケーションについてどのように考えているのか調査したデータを見てみましょう。

<コミュニケーション活動への参加動機>

※コミュニケーション活動を「重要である」かつ「参加したい」と回答した層を「積極的参加者層」、それ以外の回答を「一般的参加者層」としている。

研究者がコミュニケーションを取れる場に参加する動機は、「研究者の説明責任を果たす必要があると思うから」という回答が最も多く、「一般の人々に科学への興味を持ってもらいたいから」という回答がそれに続く形となりました。
極的にコミュニケーションを取りたいかどうかに関わらず、社会的意義を果たしたいという思いが研究者には強いようです。

では、そのコミュニケーション活動を妨げる障壁となるのは何なのでしょうか?

<コミュニケーション活動への参加障壁>

積極的参加者層と一般的参加者層の両方で「聞く側の無関心」がトップの回答となりました。しかし、先の回答からわかる通り、無関心の原因となっているのは、一般モニターと研究者の間における再生医療に対する考えの違いです。一般モニターの求める情報と研究者の伝える情報のマッチングがうまくいっていないことが、無関心につながっているのだと推測されます。

では、研究者が考えるコミュニケーション活動を促す方法はどのようなものでしょうか?

<コミュニケーション活動への参加促進方策>

機会や場所、そして活動のための資金が求められていることがわかります。特に、「機会・場所が提供されること」は積極的参加者層の8割が回答に挙げ、一般的参加者層でも最も多い回答を集めています。「機会があれば」、研究者としてもコミュニケーションを取りたい気持ちがあることがわかりました。

まとめ ―一般層と研究者のギャップを埋めるには、情報スタンスの歩み寄りが必要―

以上が、再生医療と社会のコミュニケーションに関する意識調査となります。
一般層と研究者で再生医療に対するスタンスが大きく違うことがわかる結果となりました。

いまだよくわからない新技術への安心感と信頼感を求める一般層に対し、その新技術をできる限り早く、そして広く認知してほしいと考える研究者の間のギャップが埋められているとは言い難いのが現状です。

特に、研究者はメディアに対する不信感も強く、正確な情報が発信できているとはいえません。
今後は一般層と研究者が再生医療の情報に対してどのように歩み寄っていくのかが、再生医療への理解を深めるポイントになるように思います。

後編では、一般層が患者として再生医療に求めることについて調査したデータを元に、
医師や医療機関、そして研究者がどう対応していくべきなのかを考えてみたいと思います。


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