昨今クリニックの数が増え、患者側の選択肢が広がっています。医療を‟サービス”としてシビアに捉えるようになった今、良い医療をしてさえすれば患者が集まるということはなくなってきました。本連載では、MBA取得後、船井総研で医療経営コンサルタントとして従事し、株式会社ニューハンプシャーMCを創設。ユニークな切り口と即効性のあるコンサルティング手法に定評のある柴田雄一氏が、クリニック、医院の「集患」に焦点をあてたノウハウををお伝えします。

集患

駅の改札口にある伝言板は今でもコミュニケーション媒体として機能しているのか?

私のクライアント医療機関は、全国各地に点在するため電車移動の機会も多い。各地の新幹線が止まるようなターミナル駅もあればローカル線の無人駅も利用する。クライアント先のひとつに福井県内の医療法人があり、定期的に訪問しているが、福井県のターミナル駅ともいえるJR福井駅である大きな変化があった。自動改札機が昨年9月に設置導入された。ちなみにJRの駅に自動改札機が導入されていない都道府県は、JR路線が存在しない沖縄県を除くと、これで愛媛県と徳島県となるようだ。福井駅に一昨年に初めて訪問した際には、駅を降りて改札に向かうと、集改札ボックスに駅員が立って切符を回収していた。さすがに切符を切るあの改札鋏ではなかったがとても懐かしく思えた。

駅の改札口にある伝言板

平成が終わっていく時代の流れの中で、他にも駅や電車では様々なモノやコトがなくなった。灰皿や扇風機、「白線の内側に下がってお待ちください」というアナウンス(現在は黄色い線)、そして駅の改札口付近に設定されていた伝言板もそうだ。仕事で利用する千葉県内の駅には今でも伝言板が設定されている。おそらく、多くの人はその存在すら意識せず通り過ぎてしまっているはずだ。また若い世代にすれば、今の通信環境が当たり前であるから、何の目的で設置されていることがまず理解できないかもしれない。使い方も当然わからないから使うこともできないだろう。ただし、使用用途はわかっている世代であっても、伝える相手側に今となっては、伝言板を見るというコミュニケーション行動には移らないであろう。よって時代とともにこの伝言板はコミュニケーション媒体としての役割を終えていると考えていた。

ある日のこと、その駅の改札を出る際に伝言板に向かって杖をついたご婦人が立っていた。仕事を終えて改札口に戻ると、伝言板には「○○さんへ 先に行っています」と書かれていた。伝言主はあのご婦人だろうか。機能していないように思えた伝言板は、コミュニケーション媒体の一つとして機能しているのだと知った。伝言主と“○○さん”にとってはコミュニケーション行動記憶にも新しい昨年12月初旬に、大手携帯電話会社で大規模な通信障害が起き、仕事の連絡ができない、待ち合わせしても会えないなど、ちょっとしたパニック状態に陥った。ある駅では公衆電話の前に行列が作られている光景がみられた。つまりは、コミュニケーション媒体が急に失われ、コミュニケーション行動を変える必要性が生じたのである。しかし並んでいる人たちの中には若い人はいなかった。公衆電話を使ったことがないので、掛け方すらよくわからないからだそうだ。言い換えれば、彼らにとって公衆電話がコミュニケーション媒体という認識はなく、当然コミュニケーション行動に移すこともなかったということになる。

逆にFacebookやLine、TwitterなどSNSを利用したことのない割合の多くなる高齢者世代の人々からすれば、コミュニケーション媒体としては機能しない。また利用する人達とのコミュニケーション行動も異なってきてしまう。このように、これらコミュニケーション媒体の依存度によってコミュニケーション行動に大きな影響を及ぼしている。この違いにどのように適合させていくといったことは、マーケティングの世界ではとても重要な論点となってくる。

黒電話とプッシュホン、携帯電話とiPhoneの普及と世代間ギャップ

そもそもマーケティングとは、具体的に何をすることなのかご存知か?コトラーは、サービスプロフェッショナル領域(医療機関、弁護士事務所、経営コンサルティング会社等)では、7Pというフレームワークを提示している。簡単に言えば、何をいくらでどのように提供するのかを定義していくこととある。ただし本題のベースとなる、コトラーのマーケティング4.0において、4C(co-creation=共創、currency=通貨、communal activation=共同活性化、conversation=カンバセーション)という新たな提案が示されている。しかし、医療マーケティングにおいては、この伝統的なマーケティングの7Pがフィットすると考えておりそれを適用していく。今回は、Promotionを中心に添えて話を展開する。前述した、コミュニケーション媒体とコミュニケーション行動を研究のベースとして、人が商品を購入する、サービスを利用するまでの消費者購買行動に合わせていくことで最大の効果を生み出すことが可能となる。

黒電話とプッシュホン、携帯電話とiPhoneの普及

産業革命以来から、通信技術の進化により消費者購買行動も変化している。新しいものを素直に取る入れる多感な時期(30歳くらいまでとする)の通信環境に影響するという私自身の仮説に基づくものとはなるがここで紹介する。まずは、黒電話世代。回転ダイヤル式電話機が主流だった世代である。1985年電話機の自由化にともなってプッシュ式電話が一機に広まった頃のプッシュホン世代に続く。ポケベルもこの頃が普及期なのでプッシュホン世代に含めるとする。そして1993年いわゆる第二世代(2G)のデータ・パケット通信サービス開始や、翌年の端末買取制度による通信コスト大幅値下げによって携帯電話の普及期となった携帯電話世代だ。その間にも2001年に第三世代(3G)となりテレビ電話やパソコンと同じくインターネットへの接続環境が身近になった。ついに2008年にiPhoneが世に出た。それ以降スマートフォンに取って代わっているのは周知の通りだ、それをスマホ世代と呼ぶことにする。

それぞれの端末普及期後半(多くの人が所有する頃)を節目ととらえると以下のように分けられる

・黒電話世代 68歳以上 1950年生まれ以前
・プッシュホン世代 60歳以上 1958年生まれ以前
・携帯電話世代 37歳以上 1981年生まれ以前
・スマホ世代 37歳未満 1980年生まれ以後

業種によってはもっと世代を細かく設定する場合があるが、医療においては、この設定で十分であろう。私自身の体験から申し上げると、バブルがはじけた頃の大学時代に所属した研究室では、PC9800(NEC)とMacintosh(Apple社)の2機種のパソコンが設置されていた。PC9800はまだDOSコマンドを入力して動かさなければならない背景が黒の画面であった。一方で、Macintoshはインターフェイスも直感的なマウスでの操作が可能となっていた。またその研究室の友人の机の上にポケベルが置いてあり、“恋人いるアピール”だといじっていた懐かしい記憶もよみがえる。

新社会人となってWindows3.1が発売されて、当時の上司へ導入を促した記憶が残っている。その頃自分でパソコンも購入しインターネット通信環境も整えた。当時はまだダイヤルアップ接続で時間ごとに通信料が課されていた。またソフトもハードも十分でないことから使い勝手が悪くあまり活用したとは言えないが、私にとっては携帯電話の所持よりも早かったくらいで、PCやインターネットに対する障壁もなく、すんなりと受け入れられた。また、1998年から3年ほどアメリカへ留学していた。当時からアメリカはフリー接続であったし、日本よりも進んでいたこともあり、通信技術の進化をおもいっきり享受していたと思う。そして日本に帰国すると、携帯電話端末が出国前にはモノクロの2行程度しか表示できなかったし、アメリカの端末も当時はそんな感じであった。しかし帰国すると折りたためてしかも画面がカラー表示となって驚いた記憶も残っている。日本とアメリカの技術的な時差によって、日本にのみ居住している人以上に、コミュニケーション媒体の進歩とともにコミュニケーション行動の急激な変化を体験できたように思う。

消費者購買行動決定モデルの移り変わり

私の思い出話にお付き合いいただいているが、それにふけっているわけではない。マーケティングの世界では、このようなターゲット群(今回は世代で区分)への時代背景などからその消費行動パターンを推察し、モデル化を図ることを行う。それを消費者購買行動決定モデルと言っているが、これまで多くの学者や企業から提唱されている。ここで代表的な3つについて取り上げていく。まず一つ目は、2000年初頭まではTVCMなどのマスメディアが主要媒体であったこともあり、永きにわたって、AIDMA[Attention(注意)→Interest(興味)→Desire(欲求)→Memory(記憶)→Action(購買)]が使われてきた。しかしながら、iPhone発売前後で今度は消費に影響する媒体がインターネットに主役が移っていく。それまで売り手側だけの情報発信だったが、2ちゃんねるやブログ、mixiなどのソーシャルメディアと言われる媒体が広まり、いわゆる“口コミ”が見られるようになった。また価格コムやアマゾンなどでも含めて消費者側の情報から価格まで検索でき、比較し、検討するに至った。また購入後も口コミとして情報を逆に提供するこまで可能となった。そこからAIS(CE)AS[Attention(注意)→Interest(興味)→Search(検索)→Comparison(比較)→Examination(検討)→Action(購買)→Share(情報共有)」というモデルが提唱されています。ちなみに、2009年に出した自著「“集患”プロフェッショナル」でも、このモデルを適用させている。

更には、コトラーのマーケティング4.0においては5Aという新たモデルが提唱されている。5A[Aware(認知)→Appeal(訴求)→Ask(調査)→Act(行動)→Advocate(推奨)]とあるが、実はAIS(CE)ASと大きく変わっているわけではない。Search(検索)がAsk(調査)、Share(情報共有)がAdvocate(推奨)などから、AIS(CE)ASがインターネット媒体中心の消費者購買行動モデルであり、5Aはオフラインにおいて適用できます。そもそもマーケティング4.0では、企業と顧客のオンライン交流とオフライン交流を一体化させるアプローチだと述べられている。ただし、最新のモデルが良くて古いモデルがダメとことではない。自院の医療専門領域で合致するモデルを使い分けるということが必要となる。

例えば、自分で認識できる症状や病名、または健診結果などから認識する異常等で何科へ受診すればよいかわかる場合では、主となる患者層が黒電話世代や高齢者が多い地方ではAIDMAで、それ以外であればAISASを適用すると良い。ただし最近では、眼科日帰り手術施設の多くは白内障適用患者が中心となるが、過疎化が進むようなエリアを除いてはAIDMAでなくAIS(CE)ASがフィットするケースが多くなる。

また、何科を受診すればよいかわかりにくい症状や病名、あまり一般的には浸透していない疾患・病気、それらの治療法、美容などの潜在的なニーズで受診動機を必要とするもなどは5Aを組み合わると良いだろう。以前から製薬会社が啓蒙CMを流しているが、これに当てはまる医療機関は、5Aを用い、病気や治療への理解を醸成させ潜在化している受診ニーズから顕在化されるための仕掛けをつくることが必要となってくる。

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このように医療マーケティングをプランニングする際には、①自院のターゲットとなる患者の世代を設定し、②ターゲットとなる患者の受診行動となる人の行動をデザインする。③それにあわせて自院のプロモーションの設計を行うと良いだろう。現在は、多くの潜在患者と接点を持つことが可能な媒体がある。次回以降で触れていくが、その受診行動にあわせてそれらの媒体を組み合わせることも必要だ。

デジタル技術の進化や消費者の思考の変化のスピードは速い。半年前の設計でも効果が落ちてしまうこともあるので、常に見直しをかけていくことが競争優位に立つ要素でもある。実際、広告の世界では大きな影響を及ぼしているGoogleだが、検索エンジンのアルゴリズムの大幅なアップデートが今年8月に行われた。そのアップデートによって、アクセス数が大幅に減少して、設計の見直しや軌道修正を与儀なくされたケースも少なくないのである。

とはいえ、Googleのアップデートに関することは、私たちにはコントロールできない。それを追いかけることも必要だが、ここではリスクコントロールが重要となると考えている。例えば、投資の世界では、投資商品や投資タイミングを分散せることでリスクをコントロールしている。つまり、一つの消費者購買行動モデル、一つの媒体、一つの手法に頼らずに分散させていくようにするのだ。

患者の受診行動をデザインし、どの媒体をどのように用いるのが適当か、その予算をどのタイミングで自院に導入していけばよいかなど、次回以降の連載でもう少し掘り下げていく。ある日、その駅の伝言板に、XYZと落書きされていた。漫画シティーハンターの主人公に仕事の依頼をするときの暗号メッセージで、私と同世代の人間ならばピンとくる。コミュニケーション媒体として違った意味で機能しているのかもしれない。。。

柴田 雄一株式会社ニューハンプシャーMC 代表取締役 上席コンサルタント
メーカー勤務を経て米国へMBA留学。その後大手経営コンサルティング会社に入職し、医療経営分野の経営支援に従事。2004年に(株)ニューハンプシャーMCを設立。医療経営コンサルティング、医療機関プロデュース、医療人材招聘支援サービスなどを展開中。主な著書に『“集患”プロフェッショナル』、『“開業”プロフェッショナル』(ともに医学通信社刊)、「医者が教える病気のブログ」また業界専門紙や医療関連雑誌への連載や執筆、講演等多方面にわたり活動中。南ニューハンプシャー大学経営大学院卒。