昨今クリニックの数が増え、患者側の選択肢が広がっています。医療を‟サービス”としてシビアに捉えるようになった今、良い医療をしてさえすれば患者が集まるということはなくなってきました。本連載では、MBA取得後、船井総研で医療経営コンサルタントとして従事し、株式会社ニューハンプシャーMCを創設。ユニークな切り口と即効性のあるコンサルティング手法に定評のある柴田雄一氏が、クリニック、医院の「集患」に焦点をあてたノウハウををお伝えします。

集患

「福袋」で自分の思考を超える?

若い頃の自分の写真を他人に見られるとなぜか照れくさく、気恥ずかしさを覚える。改めてその理由を考察してみると、若い自分と今の自分との髪型、肌艶、体型、そして身に着けている服装とのギャップがそう覚えさせているからだと思う。肌艶体型はともかく、髪型や服飾においては当時のファッショントレンドを懐かしむ一方で、現在のトレンドとはだいぶ違ってくるため、いわゆるダサく映って見えてしまいそれが気恥ずかしさにつながってくる。ただ時代とともに、齢を重ねながら自分自身や周辺環境も変化し、それに適応しながら、今の自分がいるという証しでもあるには違いない。

しかし、これは何十年も前の昔の自分との比較だけでもなく、1年2年という短いスパンでも起こりうる話でもある。私は、身に着けるものはその人の一面を端的に表す要素だと考えている。だから、身なりを整えることを大切にしている。とはいえ、やみくもに高額なハイブランドに身をまとい、何か別のアピールをするということではない。“センス”の一つとして磨いていきたいと常に考えている。そこで私服に対してもファッショントレンドについても情報収集しながら、自分なりにアレンジしている。

そうはいっても、ファッション業界の人間でもないから職業でもないし、専門家でもない。だから、あくまで自己満足の世界だし、自分にその“センス”があるかどうかは自信があるわけではない。だからこそ、その“センス”を磨く意識をもっている。ただ、自分が選ぶ服はどうしても同じようなデザイン、カラー、コーディネートになりがちで、すでにクローゼットにある服であるにもかかわらず忘れて同じ服を購入することが何度もある。意識はしていても、人の好みはそう急激に変わることはない。結局のところ自分の“思考”という枠を超えることが難しい。

そこで、時々福袋を買う。ただし、安く服を購入したいがためではない。“思考”の枠から脱却するために購入する。昔の福袋は、売れ残った商品を詰め込んだだけで、バーゲンハンターと言われるセグメントへの訴求だった。バーゲンハンターとは和製英語で、英語ではcherry pickerと呼ばれ、特売品ばかりを狙って買い物をする人達のことで、ブランドに対するロイヤリティは低くリピーターにもなりにくい。また企業側にとっても福袋と体のいい名称を使っているが、在庫処分セール扱いであった。しかし近年はブランド価値向上のために福袋が使われてきている。もちろん、お得感は打ち出すにせよ、中身はブランドの威信をかけて、しっかりコーディネートしたものが詰め込まれている。既存顧客のリピート率UPだけでなく、それをきっかけにファンになる顧客をつくる狙いもあるのだ。

福袋だから通常中身は見られないので、どんなものかは袋を開けてみなければわからない。帰宅後に、とにかく開いてまず着て自分の姿をみてみる。自分の気に入ったものが入っているとは限らないから、たいてい気恥ずかしいと感じる。それでも、着て外に出かける。何度か着てくると、不思議と慣れてくる。しかも、意外と周囲の評判も良い。そうなってくると、去年まで気に入っていた服を身に着けてみると、違和感すら覚えることもある。でもそれは、短いスパンでも自分の“思考”を超えられた新しい“思考”を手に入れることができた証しなのだと思う。

つまりは、自分の“思考”を良い部分で打破できるひとつのツールが福袋なのである。ファッション・コーディネーターに頼んだっていい。センスや筋の良いところから吸収できれば自分が成長できると考えている。

狩猟民族的な自費診療・高額医療施設の経営

ここで自己紹介をさせていただきたい。医療経営コンサルタントとして十数年この仕事をしている。また医療経営に関する本も個人単独では、二冊を上梓させていただいている。そのうちの一冊『“集患”プロフェッショナル』では、開業後スタートダッシュがうまくいかず破産寸前のクリニックを、マーケティングというツールを使いながら、また時々の経営者の気持ちを表現しながら、軌道に乗せていくまでのストーリー仕立ての医療経営本である。2009年に初版が刊行されてから、すでに10年近くたつが、おかげさまで改訂版が出るなど今なお一定部数は売れ続けているようだ。

私は、もともとマーケティングが専門分野のひとつでもあり得意としていることから、グループ病院から個人のクリニックまで標榜科を問わず、“売り上げをつくる”ためのコンサルテーションの依頼がそもそも多い。“売り上げをつくる”といっても、いろいろ切り口はある。1つ目は、ゼロからつくるコンサルテーション。つまり開業だ。もう2冊のうちのもう一冊が『“開業”プロフェッショナル』である。失敗しない、戦わない経営というコンセプトをベースにして、開業コンセプトづくりの着想方法や、“業”の経営者となるスタンスや心得、開業までの流れをストーリーに仕立て表現している。こちらも発売以来、高い評価を頂戴して、安定した販売部数あるようで、通年で私のところには多くの開業相談依頼が入っている。

2つ目の切り口では、競合進出などで売り上げが伸び悩んだり減少したりするケースで、その回復や更なる売り上げUPを図るといった相談案件だ。特に近年“売り上げをつくる”ことがより重要性を増している領域がある。不妊治療や分娩を扱う産婦人科、美容外科、がん免疫療法や統合医療、健診施設など自費診療を中心とした分野や、眼科白内障や下肢静脈瘤、鼠径ヘルニアなどの日帰り(もしくは短期入院)手術施設、及び病院などの手術実施施設となる。歯科医療においてもインプラントや矯正を扱う施設等も含まれてくる。

フロービジネスという用語がある。1回程度もしくは次の利用が不確実なスポットによって客との取り引きが完了してしまうビジネスタイプをそう称する。前述した領域のほとんどがここに属する。一方で、生活習慣病を中心として診るような内科クリニックなどは、罹患すればその後固定患者となって、軌道に乗ればある程度毎月の売り上げは見込めるようになる。このような収入構造を、ストックビジネスと呼ぶ。

ストックビジネスと違って、フロービジネスにおいては常に新規患者を獲得し続けていかなければ売り上げを維持することができない。しかもこの領域の多くは設備投資も大きくなり、返済元金、人件費や賃料等などランニングコストも合わせて大きくなる。とはいえ、患者から得られる対価も高くなってくる。例えば産婦人科の分娩施設の場合、妊婦一人あたり妊娠から分娩、産後ケアまで総額100万円程度の収入を見込める。眼科日帰り手術施設では、手術1件あたりでみても14万円前後となる。ある総合病院での計算では入院1名の患者から得られる診療報酬は50万円程度となっている。

領域によってもちろん様々ではあるが、いずれにしても1件当たりの収入は大きく、患者数の若干の増減であっても、ストックが難しいがゆえに安定しないため、それがダイレクトに経営に影響する。そのためにこうした医療機関は、年間何百万、何千万、場合によっては億単位の広告宣伝費を投下し続けることが必要となってくる。つまりは、ストックビジネスが農耕民族的な守りを重視する思考である一方で、フロービジネスは狩猟民族のように安定しないその日ぐらしになってしまう可能性があるからこそ、常に狩り続けていかなければならず、攻めの思考が必要となる。

私もこのフロービジネス領域に身を置く医療機関で、成功し続けている経営者と多く接してきた。医療経営者の成功といっても定義は人それぞれだけど、経済的に成功しているという論点にたってみれば、共通して言えることがある。先ほどの福袋の購入と類似した思考を有しているように映る。つまりは、ファッションも経営もポイントは同じで、自分の現在の“思考”の範疇だけで良しとせずに、“思考”の壁を打破する行動をとっている。全てを変えるわけではない。本質部分を見極め、それを変えることなくとことん追求しつつも、トレンドに適応しながら変えられるところを変えていく。

経済的成功に直結するということは、売り上げをつくれるということでもある。売り上げをつくるその手段のひとつとして、マーケティングがある。特に最近のIT・通信技術の進化のスピードは速い。最近のインターネットや携帯電話、そして最近のスマートフォンの普及などによって、消費活動のプロセスがより複雑化してきている。『“集患”プロフェッショナル』に描かれている、10年前の伝統的なマーケティングの理論の根幹は、今なお通用するものである。それに加えて、新たなトレンドのマーケティング理論を積極的に取り入れていくことがフロービジネスの経営者にとって重要となる。だからこそ、思考の枠を超えるための「福袋」が必要になる場面なのだと思う。

強い者が生き残る世界ではない?

以下の質問に答えてみてほしい。

スマホ時代の医療マーケティング新提案

①②③がNoとなっているようであれば、デジタル・ディバイド(情報格差)は大きく生じてしまっている。④⑤といった新次元コミュニケーション手段に対する普段の活用度合いや許容理解の度合い、⑥⑦の認識度合いによって、そういった新次元におけるマーケティングの活用が測れる。また⑧~⑩はマーケティング領域で使用される用語となっているため、新たなトレンドとなるマーケティング知識の理解度が測れる。いずれにしても、ひとつでもNoと答えたならば、それはデジタル・ディバイドとなる。つまり情報通信技術進化のメリットを享受できる人とできない人の間に生じる経済的・情報量的な格差であり、これが『思考の壁』となるのである。

経営者におけるデジタル・ディバイドのその壁を超えるか超えないかによって、マーケティングのアプローチは当然違ってくる。知らないことは、意思決定はもちろん、戦略の選択肢にすら入ってこない。結局は、売り上げ格差につながり自身の経営に大きな影響を及ぼすこととなってしまう。経営者自身がそのメリットを感じとることができていなければ、そこで思考は止まる。ただし、あくまでツールである。使い方次第でメリットにもデメリットにもなる。ただ、使うことによってセンスは磨かれるし、経営判断のその感は養われる。

『最も強い者が生き残るのではなく、 最も賢い者が生き延びるのでもない。
唯一生き残るのは、変化に適応できる者である』

進化論を唱えたダーウィンの言葉だ。自分が変わらなくても周りは変わっていく。『福袋』を開けてみよう。

マーケティングの進化

フィリップ・コトラーをご存知だろうか。マーケティングの第一人者と言ってよい人物であり、コトラーの提唱するマーケティング理論をバイブルとする経営者も多い。そのコトラーが、特に21世紀に入りトレンドに合わせてその理論を繰り返し、アップデートしている。大量生産大量消費時代の生産主導のマーケティング(1.0)から、消費者志向で差別化を図っていくマーケティング(2.0)、価値を重んじるSNS時代となる人間中心のマーケティング(3.0)、そしてその発展形として現在は、スマートフォン時代となる自己実現に焦点を当てたマーケティング(4.0)を提唱している。特に2010年に『マーケティング3.0』が発刊されたが、次の『マーケティング4.0』の発刊が2017年とアップデートのスパンがとても短くなっている。先に述べた技術的進歩もその要因のひとつとなっている。

2009年に発刊した『“集患”プロフェッショナル』においてはまさに患者志向の伝統的なマーケティングを伝えている。そして今回のブログタイトルに用いた「“集患”プロフェッショナル4.0」として、伝統的なマーケティングに加えた新たなデジタルマーケティングの融合について、医療マーケティングに適応した新たな患者受診行動決定モデルを含めて私のコンサルティングの現場で展開している最新の解釈を提示していきたい。

このブログは年末に書いている。これが出る頃は、年明けだから、「福袋」を購入しているかもしれない。今とは違った自分に出会えているかもしれない。

柴田 雄一株式会社ニューハンプシャーMC 代表取締役 上席コンサルタント
メーカー勤務を経て米国へMBA留学。その後大手経営コンサルティング会社に入職し、医療経営分野の経営支援に従事。2004年に(株)ニューハンプシャーMCを設立。医療経営コンサルティング、医療機関プロデュース、医療人材招聘支援サービスなどを展開中。主な著書に『“集患”プロフェッショナル』、『“開業”プロフェッショナル』(ともに医学通信社刊)、「医者が教える病気のブログ」また業界専門紙や医療関連雑誌への連載や執筆、講演等多方面にわたり活動中。南ニューハンプシャー大学経営大学院卒。